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https://w.atwiki.jp/asamimai82_torepaku/
PixivやTwitterで主にベルサイユのばら・銀河英雄伝説ジャンルで活動している82氏=埴氏の盗作検証wikiです。 【このwikiは盗作の検証・注意喚起・情報収集を目的としており、82氏を誹謗中傷するものではありません】 著作権法第三十二条により、報道・批評・研究目的での引用は認められております。 82氏の盗作について 有料写真素材サイトや雑誌、映画や女優の写真からのトレスを繰り返し自力作のような言動をする。 トレスを指摘されると無視を決め込むか謝罪もなく削除、もしくは相手をブロックしてやり過ごす 82氏のPixivアドレス http //www.pixiv.net/member.php?id=212712(プレミアム) 82氏のTwitterアドレス https //twitter.com/hanityoru 【情報提供お願いします】 82氏は日記内で画風が定まらないと書きながら、あちこちからトレスをし自力で描いたように振舞っています。 トレス発覚後も長年Pixivにはベルサイユのばら二次創作が依然として投稿されたままでした。 このことから氏は大変な強心臓の持ち主であり他の投稿作にも多数トレス作が存在すると推測していますが、約8年前からの作品であることと規模の小さいジャンルゆえ人口も少なく発見が困難な状態です。少しでも多くの方に氏の作品を見ていただき、これはこの写真や絵を元にトレスしたのではという該当作がありましたら管理人宛Twitterにご連絡いただけますようお願いします。検証はこちらで行います。 注:特例を除き管理人本人から個人サイトやPixivで活動されている方、ROMの方に直接メールやメッセージを送ったりコメントを残したりすることはありません。ツイッター上にて不特定多数の方に向けて拡散のお願いをしておりますが、こちらも特別な場合を除き個人の方へリツイートのお願いをすることもありません。なりすましもしくは愉快犯の可能性がありますので読まずに削除して下さい。ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします。 ※こちらは情報提供用メールフォームです。個人の感想などは今後削除させていただきます。あらかじめご了承ください。 HASEOさんからのトレースの画像がありません。リンク切れ?修正をお願いします。 -- ツイから来ました (2022-11-24 13 08 19) 修正いたしました。ご指摘ありがとうございます。 誰かを断罪したくてたまらないのは分かるよせめて知識つけてから叩こうね^^ -- 名無しさん (2022-11-24 18 04 22) トレスしているのは事実なので仕方ないですね。 写真を資料にする事に問題を感じない。よほど創作性の高い構図であれば、権利者が訴えたらもしかしたら違反になるかもねと言う程度。 -- 名無しさん (2022-11-24 19 37 40) コメントありがとうございます。 82氏のツイッターのアイコンなんですが、グレー判定_2の作家さんの別の同人誌からトレースしてませんか? -- 名無しさん (2022-11-24 20 47 56) 情報提供ありがとうございます。該当の同人誌のページを写真に撮ってツイッターのDMでお送りいただくことは可能でしょうか?よろしくお願いいたします。 こいつ顔も描けないのか なんで絵描きやってんの? -- 名無しさん (2022-11-24 21 27 15) コメントありがとうございます。こちらは情報提供用のメールフォームとなっておりますので、個人の感想などは控えていただきますようお願いいたします。 このサイトを作成するにあたり下記の検証サイト他多数参考にさせていただきました。 ありがとうございました。 【ジョジョ2次創作】ハツネ氏トレパク問題まとめwiki【梅に鴬】 http //www59.atwiki.jp/hatsunepaku/ 【手当たり次第】10割バッター直たん【写真トレス】 まとめwiki http //www37.atwiki.jp/10naotan/
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削除されました。
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―そのアルカナは示した― 00 The changing world 「お目覚めですかな?」 聞き覚えのある声が、彼をまどろみから引き起こした。 俯いていた顔を上げると、彼は椅子に腰かけていた。 目の前には、一度見たら忘れられないであろう燕尾服を着た老人と、見たことのない女性が鎮座していた。 老人は口元に常人ならば頬が引き攣るほどの笑みを浮かべ、女性はただ静かに眼を閉じている。 非現実的な空間は藍色一色に染め上げられ、部屋にしては狭いそこはリムジンの車内だった。 横手のワインセラーから漏れる灯りが、仄かに彼の自然に組まれた足元を照らしている。 …ベルベットルーム。夢ではなく、かといって現実でもない空間。 物質と精神。意識と無意識。夢と現実の狭間にある場所。そして、彼にとっては馴染み深い場所でもある。 しかし、そのベルベットルームの様相は彼が知る場所とは大きくかけ離れていた。 「…イゴールさん」 いかにも、と老人は頷いた。ゆで卵のようにつるりとした頭がゆれる。 それだけならば何の変哲もないただの小柄な老人ではあるが、その異様さは何と言ってもその長い鼻とギョロリと剥かれた目であろう。 一度見たら忘れられそうもない老人…、ベルベットルーム主たる、イゴールだ。 彼はそんな老人の容姿にも慣れたもので、簡潔に尋ねた。 「…僕は、どうしてここに?」 僕は。…僕は、死んだ筈だ。平和の日差しを全身に感じながら瞼を閉じたあの瞬間、僕は確かに死を感じた。死を…そう、あのよく知っていた感覚を。 『さあ―』 脳裏をよぎる声は、されど届かずに。 「結論から申し上げますれば、貴方は確かに元いた世界においては死した身。 しかし、貴方の魂は死の間際、無意識にユニバースの力を発動されたのです。 ユニバースの力によって貴方の魂は、今、別の世界において、体を取り戻すまでに回復なされた。」 「…別の世界…?」 「左様。あなたが目覚めた時、その世界は既に貴方の知る世界ではない。 ユニバースの力が導いた、別の次元世界です。」 「……。」 色々と不可思議な現象を体験してきた彼をしても、理解が今一つ及びつかない。とにかく分からない事が多すぎる。 「フフ、理解できずとも無理はございませんな。契約者の鍵は、まだお持ちですかな?」 「………」 契約者の鍵。淡い燐光を放つ藍い鍵が、彼の目の前に現れた。 それを見て、イゴールは満足げに頷く。 「さて、積る話は御座いますが、時は待ってはくれませぬ。 貴方をここにお引き留めしておくのも、些か難しくなってきました。しばしの別れと、あいなりますな。 では、またお目にかかる時まで、ごきげんよう…。」 老人と女性の姿が虚ろになっていく。 その声も朧げに霞み、意識が覚醒してゆくにも関わらず混濁してゆくという矛盾した感覚を感じながら、彼は声を聞いた。 それは今際のあのとき脳裏に響いたあの声だったのか。 それとも―…。 そのアルカナは示した。 旅路は未だ絶えず、愚者は往く。それは意義ある旅路か、ただの放浪か。 『―始まるよ。』 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2746.html
銃の形をした召喚器。それはトリガーに過ぎない。 本来ならば、その身体を銃身とし、精神を火薬とする。 ならばその撃鉄は、この言葉であろう。 ――ペルソナ。 03 Burn My Dread 藤堂綾也は星が好きだ。月が好きだ。それらを抱く夜空が好きだ。 何故、と聞かれると返答に窮する。ただなんとなく、ぼんやりと好きと感じるだけだからだ。 幼少の頃、引き取ってくれていた義父とともに夜空を見上げることが多かった。もしかするとそのせいかもしれない。 十年前……両親を亡くし、綾也自身にも重大な惨禍をもたらしたあの事故の後。 ただでさえ親戚が少なく、なかなか引き取り手が現れなかった綾也の前に現れた人物。 それが彼の義父となる男、藤堂 尚也だった。 義父は不思議な人だった。子供心に、何かを感じ取った覚えがある。 その何かは綾也を惹きつけてやまなかった。 綾也が中学生になった時、同時に正式な養子となって性を貰った。 妙に嬉しく感じたのを、覚えている。 ミッドチルダの夜。綾也はあの頃と変わらないように見える月を見上げ、そして腕時計に視線を落とした。 あと数分で、影時間が訪れる。感慨に浸る時間もそろそろ終わりだ。 これからの事に、視線を向けるべきだろう。 目下の所、問題はシャドウの出所だ。自分の知る限りでは、あのように市街地に出現するのは少数のイレギュラー。 大半のシャドウは、「巣窟」のような場所にいる。と思われる。 それが以前のように巨大な塔だったら分かりやすいんだけど、と内心独りごちた。 「タルタロス」。ギリシア神話の冥界の最奥地、「奈落」の名を持つそれは、神話とは逆に天へと昇る広大な塔の形をしていた。 その正体は、以前の世界での有数の複合企業、桐条グループが起こした“実験事故”の影響で、影時間にだけ姿を現す迷宮だ。 桐条グループは、いや正確には、桐条鴻悦……つまり当時の桐条グループの総帥は、「時を操る神器」を作ろうとしていたらしい。 そのため、鴻悦はシャドウを研究し、その特性を調べていたそうだ。 しかしシャドウを調べるうち、鴻悦は次第に虚無感に苛まれ、世界の滅びを願うようになったという。丁度その頃から、鴻悦の研究は当初の目的とずれていった。 破滅願望をもった鴻悦は、世界を滅ぼす研究へと身を投じたのだ。晩年の鴻悦の狂気を、その孫娘はこう語る。 「祖父は、何かに取り憑かれているようだった」……と。 鴻悦の研究は進み、もう少しで実験が完成する、最終段階まで来ていた。最後の実験……その最中、一人の研究者による実験の強制中断によって、その研究は「実験事故」という形をもって終結した。 実験事故は同時に、大惨事を引き起こした。周辺一帯を吹き飛ばす程の大爆発、住民の被害も甚大。 この時、綾也は両親を亡くしていた。 そしてその実験事故の禍根はそれだけに留まらない。後腐れ、副産物とも言うべきものが発生していた。それが、影時間とタルタロスだ。 これは後に知った事なのだが、実際には、影時間の発生は大量のシャドウを集めたことにより、起こるべくして起きたことだという。 シャドウには微力ながら、時空間に干渉する力があると考えられている。そしてシャドウが寄り集まり、時空間に干渉する力が集積した結果、影時間が発生する。 シャドウを大量に集めた結果。時空間に干渉する力の集大成。それが影時間というのは、ごく自然に思われる。 つまり、影時間とは「シャドウの力の正しい表れ」なのだ。 そうなれば、この世界でもシャドウの力を集積、増幅させた何らかの要因、そしてその原因があるはずである。 シャドウの力を増幅させた何か、それがそのまま巣窟である可能性もある。が、それは考えにくい。 何故ならそんなことができるのは、シャドウの事をよく知る「人間」である可能性が高いからだ。 どちらにせよ、敵の居場所が分からない以上こちらからのシャドウへのアタックは不可能なのが現状。 とはいえ、今のところ戦力は綾也ただ一人。いくら綾也が強いといっても、一人で敵地に乗り込むのも危険過ぎるために、身動きが取れない。シャドウの巣窟を見つけたとしても、結局は動けないのだ。 何か、嫌な感じがする。 シャドウがこの世界に蔓延っているのは事実なのに、こんな膠着状態のままで落ち着いていていいのだろうか? 現状に対する不安や焦りが、綾也の心中にあった。 しかしひとまず綾也はそれを打ち消し、今できることに集中することにした。すなわち、六課の周辺にシャドウが現れた場合の掃討である。 攻めることはできなくても、守ることはできる。守ることしかできない、とネガティヴに考えることもない。 守ることができるというのは、それだけでも重要なことだからだ。 イレギュラーが発生した場合、機動六課の周辺だけならば、綾也一人でもカバーできるはず。 しかし……と、どうしても考えてしまうことがある。 (僕が、探査型のペルソナを持ってさえいれば……) ペルソナには、戦闘に向かない「探査能力」に特化したものがある。「生体エネルギー」のようなものを敏感に感じ取り、それを解析できる能力。 広域をサーチすることにも長けたこの能力は、今の綾也にとって必要不可欠なものだ。この能力さえあれば、シャドウの居場所や出所も突き止められるはずである。 しかし生憎、綾也は補助能力に特化したペルソナを持ちこそすれ、それはカテゴライズするなら「戦闘用」にすぎない。 数多のペルソナを使いこなし、どんな敵とでも戦ってきた綾也に欠けている能力。それは「戦わない」力。 探査能力のスキルや素質を、綾也は欠片も持ち合わせていなかった。 いわゆる、適材適所。ペルソナにもそれがあるということだ。綾也は今まで常に先頭に立ってシャドウを倒してきた。 リーダーという役割があったからだ。 その裏で、バックアップの役はいつでも存在していた。その大切さが、今になって身に染みる。これでも十分、その重要性は理解していた筈だったのだが。 溜息をつきたくなった。確かにイゴールの言うとおり、前途多難だ。 直後、体が異様な感覚を受けた。時間と時間の境界に足を踏み込む時の、あの一瞬の感覚。 深い暗闇に身を置いた時のように、胸の奥がざわざわとして、胃が空くような感触を受ける。 闇が頭上に迫り、覆い包まんと被さってくる。そして、月が不気味に光り輝く。 影時間の訪れだった。 綾也は素早く辺りを見回す。 この瞬間だ。シャドウの住処が影時間にだけ現れるのなら、影時間に入った瞬間、何処かになんらかの動きがあるはずだった。 少なくとも、シャドウの住処になるような巨大な場所が出現するのならの話だが。 しかし、そのような動きは見られなかった。つまり、シャドウの住処は堂々とそびえ立つような建造物ではない、ということになる。 もともとこれでシャドウの住処が見つかるとは思ってなかったし、「見つかればいい」程度に考えていたので、そこまでショックなことでもないのだが。 そして、本題はここからだ。イレギュラーによる被害を減らすための、パトロール。 古典的だが、先人の知恵は借りるもの。タルタロスや影時間を消そうとしていた先輩たちも、戦力が増えるまではこのようにゲリラのような活動をしていたと聞く。 召喚器を腰に、綾也は市街地へと繰り出した。 月明かりだけを光源に、とは言っても十分に明るいのだが、不気味に静まり返った市街地はさながらスプラッター映画の舞台のようでもある。しかし飛び出してくるのは殺人鬼ではなくシャドウだ。人を襲うという点で、似たようなものだが。 血溜まりのように足元に広がる赤い染みや、異様に明るい月に青緑に染まる空と地面。 所々に西洋風の棺が樹立している。適正無き人間の、象徴化した姿だ。 シャドウと影時間の影響を遮断する作用が、影時間の中において視覚化されたものである。 象徴化している人間はそもそも影時間に立ち入ってはおらず、適性のある人間からすれば、象徴化している人間は相対的に言えば「止まって」いる。 故に象徴化している間の人間は、影時間に起こるさまざまな事象に影響を受けない。しかしシャドウによって影時間に引きずり込まれた者は、シャドウの格好の餌食となるのだ。 餌食。自分で考えていて胸が悪くなる。見慣れた影時間の風景が、今は少し不快だ。やっとの思いで消した影時間が、この世界でも。 ぐちゅり、と背後で奇妙な音がした。 綾也は振り向き、道路に蠢く黒いわだかまりを認めた。青白い仮面が、同じく綾也を捉えている。 ホルスターから召喚器を引き抜いた。そのまま流れるような動作で銃を回転させ、その銃口をこめかみに向ける。 躊躇なく引き金を引きながら。 「タナトス!」 そして、死を司るその名を叫ぶ。と同時に現れる棺を纏う黒衣の死神。タナトスが、跳躍したその勢いのまま、その腰に佩かれている剣を引き抜くと、その身体を真っ二つにすべくシャドウに切り掛かる。 シャドウがその兜割りのような上空からの強烈な一撃を受けきれるはずもなく、敢え無く一刀のもとに両断された。 両断され、二つに分裂したシャドウはすぐに原形を失い、霧消した。役目を終えたタナトスはかすかに揺らぎ、消えていく。 綾也は召喚器をホルスターに戻す。 内心、拍子抜けしていた。手ごたえがまるでない。これまで幾度となく強敵を相手に戦ってきた綾也には、雑魚同然だった。 しかし、と気を引き締める。そんな雑魚でも、野放しにはしておけない。無力な一般人は、いかに惰弱なシャドウであろうとも、それから逃れることはできないのだ。綾也は散策を再開した。 シャドウは、人間の精神のエネルギーを餌として食らう。餌食となり、精神を食われた人間は心神を喪失し、完全な無気力状態に陥る。 こうなった人間は「影人間」と呼ばれ、誰かの保護なくしては生きてゆくことさえできないような状態に追い込まれるのだ。 つまりそれは、緩やかな殺害に他ならない。 ミッドチルダ……この大都市だ、イレギュラーの数も少なくないはず。 綾也一人ではどうしたってカバー出来ないところもある。多少の被害は、諦めるしかない。 しかし、影人間となった人を見殺しにすることもできない。 影人間を元に戻す方法が、ひとつだけある。大型の、他とは一線を画す強力なシャドウを倒すことだ。 これは強い力を持った、いわばリーダーを失ったシャドウの勢力の低下が原因と思われる。 しかしそれも一時的なものだ。いずれまた大型のシャドウが現れ、影人間が増殖する。 イタチごっこのようだが、それを続けなければいずれは全ての人たちが影人間と化してしまう。 それを防ぐためにも、不毛に思える戦いを続けなければならないのだ。 しかし無限に思われるそのサイクルに、どうすれば終止符を打つことができるのか。その方法は、おそらくこの世界の影時間を消す方法と同じはずだ。 シャドウの存在は、影時間と直接の関係はない。 しかしシャドウがその姿を現し、人を襲うことができるのは影時間の中でだけだ。 影時間を消せば、シャドウがこの世界に直接関与することはできなくなる。 シャドウの存在そのものを完全に消し去ることはできないが、シャドウがこちらに干渉してこれる時間を消すことで、シャドウによる被害は無くすことができるのだ。 そのためには、影時間を消す手がかりと、影時間ができた原因を突き止める必要が……。 結局、思考は堂々巡りだ。今は考えても無駄なこと。綾也は考えるのをやめた。とりあえず今は、この時間の中、出てくるシャドウを消していくだけだ。 そうすれば、少なくともこの周辺での被害は減るはず。 その綾也の考えは間違ってはいない。しかし、同時に一つ簡単な、それでいて重大な見落としをしていた。 シャドウが出現するのは、なにも屋外だけとは限らないのだということを。 機動六課、局内。 灯りは全て落ち、窓から差し込む月明かりだけが廊下を照らしだしている。 時の刻みが停止し、静寂に包まれた暗闇で、なのははひたすら走っていた。 背後に迫る気配。振り返らずともその姿はなのはの目に焼き付いている。影のように黒い体に、のっぺりと青ざめた仮面を張り付けたような異形。なのはは知る由もないが、「マーヤ」と呼ばれるタイプのシャドウだった。 最もポピュラーで、戦力もさほど高くない小型のシャドウ。マーヤは、仮面ごとに1~12までのタロットのアルカナになぞらえて分類される。 このマーヤのアルカナは、魔術師。逆位置の啓示を名に持つ、「臆病」のマーヤだ。 数あるマーヤの種類の中でも最弱の「臆病のマーヤ」だが、今のなのはにとっては十分な脅威となりうる。 マーヤは真っ直ぐに、獲物であるなのはを追っていた。 どうする?どうすれば。頼みの綱の綾也は、周辺のイレギュラー掃討に向かっている。 影時間が明けるまで帰ってこないだろう。救援は望めない。 この時間内、なのはは、それどころか六課全体は完全に無防備になる。魔術師の要のデバイスが使えず、機械も使えない。 こんな悪夢のような状況でできることと言えば、あのシャドウから逃げ続けることくらいだった。 しかしそれもいつまで持つか。戦闘時の機動を飛行魔法に頼っているなのはは、普段は極度の運動音痴。 持久力だって高くない。走り続けることもできなくなったら、待つのは死。それだけだ。 (そんな……っ) いくらなんでも、あんまりではないか。局内は安全だと思い込んだが故の危機。しかしその判断ミスを誰が責められよう。 シャドウは外からやってくるものだという認識が、四人の内に共通していた。 ほんの数分前、影時間が訪れてすぐのこと。なのはは六課の局内を捜索していた。 影時間の事を、局員にどう伝えるべきか。日中は、綾也が六課に入隊することを決めた後、なのはも含めた四人で、対策を話し合った。 結果、影時間に適応していない者にはそれを伝えず、適応者のみに影時間を打ち明けることになった。 適応していない、その事実をしらない者たちに真実を話したところで何ができるわけでもなく、いたずらに混乱させるだけだと考えてのこと。 不安を煽るメリットは、皆無だ。下手をすればこちらの正気を疑われかねない内容なのだから、尚更である。 よって、影時間に入ってから適応者を捜索するという手順に至り、影時間内での行動も、ここで決められた。 綾也は周辺のパトロール、残った三人は六課内部で適応者の捜索。 三人で手分けして、象徴化していない適応者を探す事になっていた。 しかし、まさかこんな事になるなんて。 とりあえず行くあてもなく、なのはが廊下を歩いていた時、不気味な音と共にそれは訪れた。 聞き覚えのある、気味の悪い音。なにかが潰れたような、得体の知れない奇妙な音。 恐る恐る振り向けば、そこにあったのは小さな黒い塊だった。丁度月の光が届かない、影になっている部分に生じている「何か」。 いや、正体は分かっている。この闇の中、生じる影よりもなお黒く昏いその異物。 塊は徐々に大きさを増し、奇妙な箇所から腕を二本生やすと、なのはの方を振り向いた。 大きさ、高さはせいぜいなのはの膝程度。昨夜のシャドウと同じように、光を全く映さないゴムのような表面。 仄かに発光している、青白くどこか物悲しげな表情をした仮面。その仮面が、なのはの姿を「見た」。 瞬間、なのはの背筋に氷柱が通ったがごとく全身が強張る。 マーヤがなのはの方へ滑るように向いだしたのと、なのはが逆方向へ逃げ出したのはほぼ同時だった。 一度覚えた恐怖は、そう簡単に拭い去れるものではない。この異形の正体を知っていても、それを前にして立ち向かうことなどできない。 昨夜出くわしたあの大型のシャドウとは違って体も小さく、腕だって二本きり。 その手に刃が握られているわけでもない。 少なくとも、あれよりは遥か格下の存在だということは分かった。 しかし風貌的に昨夜のシャドウを思わせるマーヤは、なのはの心の根元的な部分にある恐怖を呼び起こす。 この先一度でも立ち止まったら、きっとその場で動けなくなる。なのはは直感的にそう感じていた。 シャドウの動きは、ともすれば子供の駆け足並みに緩慢だった。しかし、それでいてなぜか振り切れないスピードでなのはを追ってくる。 足を必死に動かし続ける限りは、捕まることはない。しかし、影時間が明けるまで走り続けることができるのか。 綾也によれば、影時間はおよそ一時間。 (できっこない……!) だからと言って、諦めるのか。ここで己の生が終わる事を、よしとしていいのか。 目を、逸らしてはなりません…… 「!?」 心の奥底で、自分のものではない声がした。いや、本当に声だったのだろうか? なのはは呆然と立ち止った。漠然と心の中に溢れる、この不思議な感覚。心臓が、早鐘を打っている。 人が誰しも心に抱える恐れや怖さというものは、自分にとって何が危険なのかを教えてくれる重要なもの。 そして逆に言えば、何も恐ろしいと思わなくなったとき、人は立ち止まらなくなる。 自らの行いを、そしてその行動の結果を、恐れなくなるからだ。 人は、恐れに縛られれば、何もできなくなる。 かといって、恐れを全く抱かなければ、行動に犠牲を出す事すらを厭わなくなる。 真の恐怖を覚えた時、何が人を支えるのか。それは自分を信じる心。そして、自分の信じる何かへの信頼。それだけだ。 自分から眼を逸らさず、向き合ってこそ、恐怖へ立ち向かうことができるのだ。 背後のシャドウを振り返り、緩慢な動作で迫るそれを見据える。 なのははシャドウを通して、見詰めていた。真の恐怖の、その先にあるもの。 そして信じた。自分の力を。自分の中に眠る、可能性を。 (綾也君……) 心の中で彼の姿を思い描く。その後ろ姿が、拳銃を自らの頭に突き付ける。 なのはは、自分の手を銃を持つ形にしてこめかみに宛がった。 仮想のトリガーを握る指の動きが、彼の動きとリンクする。 今、この行為の意味が理解できた。必要なのは、勇気と覚悟。そして……この、言霊。 震える吐息を吐きだして、深呼吸を一つ。気持ちを落ち着かせて、一音ずつ、呟くように。 恐怖を燃やせ。 ……トリガーを、引いて。 「ペ・ル・ソ・ナ」 そして。 弾丸が放たれた。 なにかが弾けるような音とともに、なのはから精神の欠片である青白い結晶のような板が散乱し、そしてそれは徐々に人の姿を象って行った。 なのはを立ち止らせたその 声なき声 が、なのはの脳裏に囁きかける。 我は汝……汝は我……。 我が名は内なる仮面。 汝の心理に宿りし魂が刃。 我は汝の心の海より出でしもの。 白銀の車輪、アリアンフロッド。 極彩の虹もちて、あらゆる悪を調伏せしもの。 我、汝の運命の刻みと共にあらん……! 現れたのは、後光が差しこむように感じる光の女神、アリアンフロッド。 後光のように見えていたのは、一定の速度を保ちながら絶えず回転している、巨大な白銀の煌めく車輪だった。 その車輪はそれ自体が光を放っており、赤から紫へと七色のグラデーションを燈しながら周囲を染めている。 その光を受け、流麗に流れる絹糸のような頭髪。まさに虹のように光り輝き、その軌跡に淡い燐光すらを残してゆく。 その身にはゆったりとしたローブのようなものを羽織っており、額にはティアラを頂いている。 頭上には、天使の輪の如くに虹が浮かんでいた。 ゆっくり、誘うようにアリアンフロッドがその手を差しのべた。 するとその手は聖なる光を発し、虹のような七色のスペクトラムの流れがシャドウを射抜く。 たちまち蒸発を始め、もとから存在しなかったかのように、跡も残さずに消え去った。 それと同じように、白銀の車輪が揺らぎ、アリアンフロッドの姿も消えてゆく。 なのはは、召喚のショックからか、呆然とその光景を眺めていた。 「わたしが……ペルソナを、出せた……」 やがて呟いた一言には、紛れもない驚きが含まれていた。 あのとき自分は何をした?無我夢中で、心が導くままにトリガーを引いたのは覚えている。 あのときの不思議な感覚。シャドウに対する恐怖のくびきが抜き取られ、すべてがクリアに、鮮明に感じられた。 言葉にするなら……そう、覚醒。あれが、もう一人の自分。 アリアンフロッド、それがわたしのペルソナ。 わたしは、ペルソナを得たのだ。 余韻に浸る暇もなく、なのはは眩暈を感じると、そのまま意識を失い、倒れこんだ。 それからほどなくして、影時間が明けた。 最後のシャドウを消し終えた綾也の息は、少し上がっていた。 小一時間ぶっ通しで、唯一人現れるシャドウを倒し続けるのは、相手がいくら雑魚とはいえ消耗を強いられるものだった。 ともあれ、綾也は通常の時の流れに身を戻し、六課への帰路を急いだ。 何故か、自然と早足になる歩みを抑えられない。 問題はないはずだ。なのに、何か嫌な予感がしていた。ぼんやりと、実体をもたない漠然とした不安。 僕は、何か見落としをしている――? 何を見落としているのか。それがわかれば、スッキリするものを。 しかし、この不安は杞憂ではないと、直感的に感じていた。 ……急ごう。綾也は、ついに走り出した。 前へ 目次へ 次へ
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艦船フリーデン内 休憩室。 大きなソファーに観葉植物が置かれた質素な作りのこの部屋で、ウィッツとロアビィの雇われ組は休憩をとっていた。 ロアビィはを何か考えているのか、壁に寄り掛かって難しい顔をしている。 ウィッツはウィッツでそれを全く意に介さず、つまらなそうにソファーに寝そべっていた。 「おかしいとは思わない?」 ふと、静寂を切ってロアビィがウィッツに話し掛ける。 「何がだよ?」 「ジャミル・ニートといえば、この世界じゃかなり名の通ったバルチャーだろ? そんな奴が実は時空管理局の人間で、『提督』なんて大層な役やってる超エリートと来たもんだ」 「……そのジャミルが、あんな小娘一人に血眼になってるってことか?」 「ご名答」 起き上がり様にウィッツはロアビィに顔を向ける。 実を言うと、ウィッツも少しだけティファの素性が気になっていた。 名目上二人への依頼は『船の護衛』だが、ジャミルから託された真の依頼は『ティファ・アディールの護衛』 しかも仕事は護衛だけだというのに給金は破格。 何故ティファという娘にそこまでこだわるのだろうか。 ウィッツには皆目見当もついておらず、それは話を始めたロアビィも同じだった。 「それにあんなに強そうな局員の方々連れてるのに、俺達みたいなフリーの魔導師雇うのも解せないんだよねぇ」 「裏があるってか?」 「ま、そういうこと」 「……ジャミルが何を考えてるか知らないが、俺には関係ねぇや」 理由を知った所で報酬を貰ったら即さよならだしな、と付け加える。 契約云々以前に、ウィッツは時空管理局と関わりたくないという強い思いがあった。 時空管理局の管理下に置かれたアフターウォーでは法が施行されている。 殆ど飾りに近い法とはいえ、バルチャーを営むにはその法律に則って管理局の許可が必要になるのだ。 しかし質量兵器の使用禁止や魔導師ランク取得などバルチャー認定基準がこの世界の住人にとっては厳しい為、ほとんどのバルチャーは無許可で活動をしている。 ウィッツも認定手続きが面倒だという理由で無許可バルチャーをやっており、時空管理局と行動を共にしている今現在もかなり居心地の悪い思いをしているのだ。 触らぬ神に祟り無しとでも言わんばかりに、ウィッツは再びソファーへ横になった。 そんなウィッツを見てロアビィが呆れたような表情を浮かべる。 「そいつは残念。彼女の秘密がわかれば、それをネタにして儲け話にでも」 「儲け話だぁっ!?」 完全に冷えたと思われたウィッツの態度が急速に加熱した。 ソファーから飛び起き、ロアビィにズイと詰め寄る。 金が絡んだ途端に豹変したウィッツの態度に驚きを隠せないロアビィだが、場所が場所だけに焦りを感じた。 「し、しーっ! 声が大きいよ。誰かが聞いてたらどうすんの?」 「聞いていたが、どうする気だ?」 ハッと口を抑えるが時既に遅し。 後ろから痛い程視線が突き刺さる。 目の前のウィッツの表情が引き吊っているのを見ても、後ろにいるのは話しを聞かれたら相当不味い人間だと言う判断はついた。 ロアビィは恐る恐る後ろを振り返る。 そこにいたのは怖い顔をした鬼……ではなく、腰に手を当てたシグナムとサラだった。 「全く、偵察に行くと呼びに来てみれば。油断も隙もあったものではないな」 「い、いやー……これはその、ちょっとした出来心で……」 「とにかく、キャプテンに報告します」 「ちょ、ちょっと待った!」 ロアビィは去り行くサラの腕を慌てて掴み、自分の方へと引き寄せる。 ジャミルに知られれば報酬を貰う前に追い出される危険さえあるのだ、かなり必死である。 しかしサラは煩わしそうにロアビィを睨み付け、捕まれた腕を振り払う。 「言い訳はキャプテンの前でどうぞ」 「怒ると、素敵な顔になるね」 「この状況でよくそんな口が利けたものだな」 身が危ないと言うこんな時まで口説き文句は忘れない。 そんなロアビィに呆れ果てるシグナムだが、サラは対照的に薄っすらと頬を染めた。 しかし厳しい表情が崩れることはなく、またすぐに部屋の外へと歩みを進める。 その時、またもロアビィの手がサラの腕を掴む。 「おい! 待てって言ってんだろ!」 「ちょ、ちょっと! 放して!」 「キャプテンキャプテン言ってるけどさ、あんたらだって何も知らされずにこんな偏境世界まで来てるんだろ!?」 「そっ、それは……」 確信を突く一言に今まで厳しかったサラの表情が一変した。 目を逸らし、ばつが悪そうな顔でうろたえている。 ロアビィはサラの腕を放し、今度は打先程とって変わった優しい表情を見せた。 「こっちだって命張って商売してるんだ。……せめて、あのティファとかいう娘のこと、知りたいと思うんだけどね」 「そ、それは……」 「シグナムさんもそう思わない?」 「全く思わんな」 即答。 シグナムにも自慢の話術で賛同してもらおうと企てていただけに、思わずロアビィは肩を透かしを食らう。 「私は主はやてを信頼し、主はやてが信頼したジャミル提督に全幅の信頼を寄せている。そのジャミル提督の事だ、何か考えがあってのことなのだろう」 「これは、見上げた忠誠心で……。でも、こちらとシグナムさんみたいにキッパリ割り切れるような性格してないんでね」 ね? とサラに微笑みかけるが、彼女は浮かない顔のまま何も答えない。 それはシグナムのように無償でジャミルを信用出来なかったことへの自己嫌悪によるものか。 はたまた、副官である彼女に何も教えてくれないことへの寂しさか。 結局ロアビィの言葉に何も返せぬまま、サラは無言を貫き続けていた。 ガロードがティファを連れ去ってから数時間。 二人は逃げ込んだ森の中で焚き火を前に並んで座っていた。 木々に囲まれた森の中だけに、月の明かりは入って来ない。 揺らめく炎の明かりだけが二人の顔を照らし出している。 「ティファ。君って、あいつらに捕まるまではどこにいたんだ? それに、あの不思議な力は?」 ティファに話し掛けながら、ガロードは焚き火の中へ拾ってきた小枝をくべた。 だが、ティファは答えない。 沈黙の中、枝の爆ぜる乾いた音だけが暗い森の中に響く。 「魔法、じゃあないよな? もしかして、前の戦争の時にいたっていう超能力者って君みたいな人だったのかな?」 再びガロードはティファに問う。 だが、やはりティファは答えなかった。 上空で透き通った風が吹き、頭上から木々がざわめく音がする。 雰囲気も手伝ってかその音は非常に不気味に聞こえた。 「なぁ、ティファ。黙ってちゃ何もわからないよ」 焚き火の暖かな光を眺めながらポツリ呟く。 そして沈黙が三度二人の間に落ちるかと思われた時だった。 「私は」 「え?」 殆ど自分からは何も喋らなかったティファが、ガロードに話し掛けてきたのだ。 軽い驚きに顔を横へ向けると、ティファと目が合う。 吸い込まれそうな紺碧の瞳がこちらに向けられていた。 「私は、あなたを知りたい……」 「ティファ……うん。わかったよ」 ガロードはティファからの意外な質問を嫌な顔一つせず快諾した。 気持ちの何処かで、ティファのことも知りたいが、自分のことも知っておいて欲しいと思っていたのかもしれない。 視線を再び焚き火の方へと戻し、ガロードは語り始めた。 「俺が生まれたのは、ちょうど戦争が終わった年だった……」 親父は軍に籍を置く技術者だったけど、戦争で死んじまった。 物心ついた頃って、まだめちゃくちゃだった。 太陽なんて出てないし、ずっと冬みたいだった……。 なんだかんだで、友達も半分くらい死んじゃったし。 やっと春が来るようになって、俺は時空管理局の技師になろうと思ってたんだ。 親父の血を継いだらしくって、昔っからそういうのが得意だったから。 それに管理局なら才能次第で子供でも雇ってくれるし。 でもある日、町は流れの魔導師の一団に襲われて……。 酷い有り様だった、ホントに……。 俺、昔から魔法の素質だけは全然なくてさ、何にも出来なかった……。 だから、そんな俺が助かったのは奇跡だった。 いや、あの時、俺は一度死んだんだと思う。 「……へっ、それでふっ切れちゃってさ。今みたいなお仕事になっちゃったってわけ」 「悲しい時代……」 「えっ?」 「思い出も、悲しい……」 そっと、ティファが自分の手をガロードの手に添える。 手自体は、少し冷たい。 しかし、何処か温もりを感じさせるその感覚にガロードの心は解きほぐされてゆく。 「私も、独り……」 「ティファ……」 ガロードは再びティファの瞳を見つめた。 先程は綺麗だと感嘆しただけだったが、今度は少しだけ違う。 ガロードの過去を知ったからか、深い悲しみの色がそこにはあった。 涙など一滴も零れ落ちていないのに、悲しみを感じさせる深い瞳。 その不思議な色に、ガロードはただただ見入っていた。 「暖かい、手……」 「え? ……うぇっ!? うわぁっ!!」 今更ティファに手を握られていることに動揺し、ガロードは慌てて手を離した。 気恥ずかしいやら嬉しいやら、思わず体が縮こまってしまう。 もちろん顔は沸騰したように赤くなっていた。 それが不思議なのか、ティファは小首を傾げる。 だが、次の瞬間その表情が強張った。 『Emergency』 「うわぁっ!?」 GXの警告と同時にティファがガロードを押し倒した。 突然の出来事に目を見張るガロード。 が、目の前を魔力弾が通過し、背後の森に着弾した瞬間全てを悟った。 自分達はまたも襲撃されていると。 「だ、誰だっ!?」 魔力弾が飛んで来たであろう方向を警戒しながら凝視する。 木々の間に魔力の光が見えた。 それはゆっくりゆっくりとガロード達の下へ近づいてくる。 森の中から出て来たのは一人の女バルチャーだった。 そして光は女の持っていたデバイスの魔力刃だと分かる。 「フフフ。お宝を見つけたよ?」 ガロード達を見つめ、女バルチャー――ヴェドバは妖しく微笑んだ。 魔力光が照らすその笑みは、背筋が凍るほど気味が悪い。 「さようなら、坊や達……」 弱者への慈悲でも掛けているつもりなのだろう。 そう囁くとガロード達に掌を向け、拳大の魔力弾を生成した。 GXを起動させようとするガロードだが、ヴェドバが魔力弾を撃つ方が早い。 ヴェドバがそのまま魔力弾を二人に放とうとした刹那。 ヴェドバが出ていた方とは全く違う方向から魔力弾が飛んで来た。 魔力弾はヴェドバとガロードの間に着弾し、凄まじい砂煙が両者を分かつ。 「なっ! 同業者かい!?」 「い、今だ! GX、行くぜ!!」 『Drive ignition』 砂煙の中、すぐさまティファを背に隠れさせガロードは叫んだ。 同時にガロードの体が光に包まれる。 僅か数瞬で光は弾け、バリアジャケット姿のガロードが姿を現した。 光が弾けた衝撃で立ち上がっていた砂煙も晴れる。 だが、そこには目を疑う光景が広がっていた。 「こっ、これはっ! なんて数の魔導師だ!?」 前から、右から、左から。 裕に50は超えるバルチャー達がガロードを狙っていた。 正確には、ガロードの持つGXを。 アフターウォーの大部分である闇を生きる人間は、何もバルチャーだけではない。 情報屋という人種もこの世界において幅を利かせているのだ。 二人が森へ逃げ込んで来た時に茂みから二人を観察していた人物もそんな情報屋の一人。 ガロードは運悪くもGXを所持している所を見られ、バルチャー達に広められてしまったのだ。 「くっ! 渡してたまるかぁっ!」 「うわぁっ!!」 『Round shield』 商売敵の登場に焦ったヴェドバがガロードへ襲いかかった。 辛うじてGXのオートガードにより魔力刃を防ぐ。 しかしいくらデバイスが高性能でもガロードは魔導師として素人だ。 GXに頼り切りで生み出したラウンドシールドは本来の強度の半分にも満たない。 貧弱な障壁はヴェドバの魔力刃によって火花を散らしながら着実に罅を入れられてゆく。 「フッフッフッ……もらったよ!!」 「まだ……まだぁ!!」 『Rifle form』 ガロードの叫びに呼応するようにGXが魔力の光を纏った。 操縦桿の姿は見る見る内に変わってゆく。 光が晴れた時、ガロードの手の中にあったのは白いライフル銃だった。 障壁を維持したまま銃口をヴェドバに向ける。 「ふんっ! 障壁の越しに狙ってどうするつもり」 「食らえ!!」 『Shield buster』 次の瞬間、勝ちを確信していたヴェドバの鳩尾に拳大の魔力弾が直撃した。 障壁として利用していた魔法陣を魔力構築に利用したのだ。 ヴェドバの余裕に満ちていた表情は一瞬で苦痛に歪む。 「がはっ!!」 肺からすべての空気が吐き出されたような錯覚に襲われながら吹き飛ばされるヴェドバ。 そのままの勢いで木に激突し意識を失った。 素人の放った弾とはいえ、ほぼ零距離で射撃魔法を食らったのだ、無傷で済むはずもない。 「よ、よし、まずは一人……うわああぁ!!」 ヴェドバを退け一安心……とは、他のバルチャー達が許さなかった。 同業者が倒れたのを機に、周りで様子を見ていたバルチャー達が一斉にガロード達に攻撃を開始してきたのだ。 罅の入ったラウンドシールドが雨粒の様に飛んでくる弾を防ぐが、いつ消滅してもおかしくない。 (くっ! これじゃあいくらガンダムでも……!) GXを強く握りしめ、反撃できない歯痒さを押さえつけるガロード。 これだけたくさんのバルチャーに囲まれれば、負けは目に見えている。 それに人数も去ることながら、相手は場数を踏んだバルチャー達。自分は初心者。 絶望的だ。 もしガロード一人であったならば、何が何でも逃げようとしていただろう。 「……って、弱音吐いてる場合じゃねぇよな!」 しかし、今のガロードは一人ではない。 守りたい存在が自分のすぐ傍にいるのだ。 有りっ丈の気合いを籠め、ガロードはライフルフォームのGXの銃口をバルチャー達に向けた。 「こんなところで死んでたまるかっ!」 狙いも付けずに引き金を引く。 人数が人数だけに狙いが定まらずとも弾は当った。 「死ぬもんかっ!!」 無我夢中になって引き金を引く。 魔力弾が放たれる度にバルチャーは一人また一人と倒れていった。 「死なせるもんかあああああっっ!!!」 とにかく一人でも多く倒し活路を開く。 自分の後ろに隠れているティファを守るの為に。 ガロードは引き金を引き続ける。 (ガロード……) 10人ほどのバルチャーがガロードの射撃によって気絶した頃。 ガロードを守っていた障壁についにガタが来た。 度重なる攻撃に耐え切れなくなったラウンドシールドは砕け散り、魔力弾の直撃がガロードを襲う。 「うわぁぁぁっっ!!」 バリアジャケットの強度があったお陰で痛みは耐えられる位だが、衝撃は緩和できない。 必死にその場に止まり反撃に出ようとするが、思ったように体が動かないことに気がつく。 慣れない魔力弾の連射にガロードの精神も限界を迎えようとしていたのだ。 「はぁ、はぁ、はぁ……!ジ、GX!」 『Round shield』 少しでも時間稼ぎをとなけなしの魔力で再び障壁を構築する。 が、構築された障壁は点滅し、今にも消えそうなほど頼りないものだった。 これが消えれば、本当にガロードには打つ手がなくなる。 「く、くっそぉ……これまでか………?」 「ガロード」 「えっ?」 ガロードが今度こそ諦めかけたその時、彼の背に隠れていたティファが口を開いた。 命の危機が迫っているというのに、彼女の声は落ち着きを放っている。 「あなたに、力を…」 「力? 力って一体……?」 ガロードが聞き返す声も聞かずティファは不意に目を閉じた。 何かを感じているのか? 理解に苦しむガロードだったが、変化はいきなりやって来た。 『ニュータイプによるシステムロック解除確認。サテライトシステム起動』 GXが告げた瞬間、ライフルフォームだったGコンはデバイスフォームへと戻った。 「な、なんだ!?」 『Satellite form』 「うわぁ!?」 変化はそれだけでは終わらなかった。 再びGコンが変形し、小型画面と透き通った緑のレンズ部が現れる。 更に発動させていない筈のリフレクターウイングの翼までもが出現。 極めつけは、ただ背負っているだけだった巨大な砲身が稼働し、ガロードの右肩を陣取ったのだ。 連続する変化について行けないガロードの前に、今度は空間モニターの画面が現れる。 そこには細かな文字とともに、こう記されていた。 『SATELLITE SYSTEM GX-9900 NT-001』と。 「サテライト…システム……? これが、その力なのか?」 その問いに小さく頷くティファ。 元の性格の為だろうか、それとも例の不思議な力で勝利を確信しているのだろうか、表情に不安や焦りは見て取れない。 しかしガロードにとっては些細なことだ。 諦めるくらいならとGXを強く握りしめた。 「よぉし……行くぜっ!」 『フラッシュシステム起動。メインシステムとの魔力リンク接続。初回ユーザー登録を行います』 丁度その頃。 ティファの捜索を再開したフリーデンが、今まさにガロード達が戦闘をしている森へ近付いていた。 戦闘と思わしき光を見つけ、もしやガロードではないかと疑いを持ったからだ。 守護騎士一同と雇われ組は偵察に行っているため、ブリッジには緊急時に襲撃できるようはやてが待機している。 「キャプテン、そろそろ戦闘区域に……あら?」 「どうしたですか?」 管制の手伝いをしていたリインがサラの疑問符を浮かべた声に反応する。 「あ、いや、戦闘中だと思われる魔導師一体の魔力値が規則的に上下しているの。どこかと通信でもしているのかしら」 「なに!? まさかっ……!」 「? ジャミル提督?」 「至急偵察に出ている守護騎士達を呼び戻せ!!」 「は、はいです!!」 様子が急変したジャミルに驚きつつも、リインはすぐにシグナム達と通信を始めた。 ジャミルは落ち着きを失い、体を震わせながら拳を握る。 脳裏に過るのは15年前の悪夢。 (やめるんだ! ティファッ!) 強く念じるジャミルだが、頭を駆け巡ったのは激しいノイズだけだった。 同時に、横にいたはやてが月から伸びる一本の光を視認する。 「なんや、あれ……?」 『ユーザー登録完了。魔力受信用ライン精製』 GXを銃を撃つように構えると、月から伸びてきた魔力ラインがレンズ部に直結した。 空間モニターの内容が文字から射撃照準へと変わり、ガロードの狙いと照準の中心がリンクする。 「次っ! 4.03秒後に……月の魔力!?」 「……来ます」 ティファの言葉の直後、膨大な月の魔力が魔力ラインを通してGXへと流れ込んできた。 同時にGX内蔵された小型画面にリフレクターウイングと全く同じ形のケージが現れ、魔力のチャージ量を逐一表示する。 ガロードの背のリフレクターウイングも更なる輝きを放ち、それに怯んだバルチャー達は思わず攻撃を中止した。 歴戦の勘から逃げ出す者も少なくない。 魔力を受けているガロード自身も、デバイスから伝わる魔力の強さにGXを握る力が強まる。 『ライン精製及び受信成功。チャージ完了までのカウントダウンを開始します』 「キャプテン! 例の対象魔力値が大幅に上昇しています!!」 「くっ! ティファよ……!」 ノイズと闘いながらティファに呼びかけるジャミルだが、返答は全くない。 遂には耳から鮮血が垂れ出してきた。 「は、はやてちゃん……」 「誘拐事件は起こるわ月からレーザー光線が降ってくるわ……今度は一体何が起きるって言うんや……」 不安げな表情を浮かべて近づいてくるリインを軽く抱き寄せ、はやては深く溜息をついた。 しかし、不安を抱えているのははやても同じだ。 ジャミルの只ならぬ様子を見ていれば、これから何が起こるのか想像がつかなくても恐怖を掻き立てられる。 何かとんでもないことが起こる。 フリーデンクルー全員が緊張に包まれた。 『Three』 ――秩序の崩壊したこの世界にあって、頼れるのは己の力だけである。 生きるためには、戦わねばならないのだ。 確かに戦争は終結した。 だが、一人一人の戦争は、まだ終わってはいなかった。 『Two』 だから人は力を求めた。 己の欲を満たすため、己の大切だと思うものを守るため。 ただ我武者羅に力を求めた。 手に入れた力は争いを招くと知っていて、それでも人は力を求めた。 そして、人が求めた力によって…… 『One』 悪夢は再び蘇る―― 『Count zero』 「撃つなあああああああああああああ!!!」 「行けええええええええええええええ!!!」 『Satellite cannon』 奇しくも、ジャミルの叫びとガロードが引き金を引くのは同時だった。 瞬間、サテライトキャノンの砲口から眩い『光』が噴き出す。 噴き出した『光』は一本の巨大な束となり触れたもの全てを飲み込んでゆく。 草花が、木が、暗闇が、人が、全て例外なく。 『無慈悲』という言葉が最も当てはまるのだろう、その光の前には如何なるものも抵抗を許されなかった。 「うああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 そして光の爆心地であるガロードの視界も光に包まれてゆく。 まるで自分の体が消えてゆくような感覚。 広がってゆく無音の世界。 目の前の現象を全く理解することが出来ず、ガロードはただ叫ぶしかなかった。 ――ティファの異変に気付かずに。 かくして、森は数分も経たないうちに光に溶けた。 強い恐怖のみを感じる、死の光に。 『GX-9900 ガンダムX』 15年前一つの世界を滅ぼしかけたデバイスの名である。 ―PREVIEW NEXT EPISODE― 復活したサテライトシステムにより、多くの人間が死に、ティファの心は深く傷ついた。 時空管理局の精鋭達により捕えられたガロードは、GXを奪われ監禁されてしまう。 そして他方では、大いなる悪意が静かに動き始めていた。 第三話「私の愛馬は凶暴です」 戻る 目次へ 次へ
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■二次創作について まず前提として、二次創作は一部のジャンル・作品を除き、法的には違法となる事を知っておいて下さい。 著作権法では、著作権者(作者や出版社・制作会社等)の許可なく、著作物を利用する事を禁じています。 キャラクターや世界観・設定等を使って創作する(漫画や小説を書いたりグッズを作る)こと(二次創作)は、著作権を侵害しているのです。 ※一部の作品ではガイドラインを公開し、二次創作を許可している場合もあります。この場合、ガイドラインに沿って活動している限りは著作権侵害とはなりません。 では何故コミケ等で同人活動(二次創作)が可能なのか? 著作権者が黙認してくれているからです。 二次創作はファンが作品を愛してくれている事の現れでもありますし、場合によっては二次創作を見た方が原作にハマるという事もあり宣伝にもなると考えているのです(憶測でありあくまで一例です) しかしやり過ぎてしまうと著作権者も黙っていられなくなります。 たとえばあまりにも大きな利益を得る事、また作品のイメージを壊してしまう作品を作られる事などです。 そして海賊版を作る行為もその一つです。 殆どの場合は注意で終わる事が多いと思いますが、裁判になった事例もあります。 同人活動(二次創作)をする際は、自分の作品は公式作品あってのものだという事を自覚し、節度をもって活動する事が大事かと思います。 ちなみに著作権侵害は刑事罰があります(10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金) ただし今のところ、著作権侵害は親告罪とされており、著作権者(作者や出版社・制作会社等)が訴えない限りは刑事罰を受けることはありません。 ■海賊版とは? 一般的に海賊版とは、映画等のディスクのコピー商品を指すことが多いですが、 当wikiではコピー商品だけではなく、類似品や公式グッズと取られる可能性があるグッズ等を含めて【海賊版グッズ】としています。 どのようなものが海賊版グッズとなるかは、どういうものが海賊版グッズなの?をご覧下さい。
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その日、ミッドチルダの時空管理局地上本部では、公開意見陳述会が行われていた。 会議開始からすでに四時間が経過し、雲の多い空は夕暮れの紅から、夜空の藍色へと変わりつつある。 地上本部の外周部を、茶色い制服を着た二人の少女が歩いていた。 機動六課スターズ分隊所属、青い髪をしたボーイッシュな少女スバル・ナカジマと、オレンジ色の髪をツインテールにした勝気な瞳の少女ティアナ・ランスターだ。 機動六課は、他の部隊と共に会場の警備任務に就いていた。スバルとティアナは、緊張した面持ちで見回りを続ける。 聖王教会の騎士カリムの預言では、公開意見陳述会が襲撃されると出ている。 おそらく犯人は、稀代の科学者にして、広域指名手配されている次元犯罪者ジェイル・スカリエッティだ。ガジェットドローンと呼ばれる無人兵器群と、機械と人間の融合によって高い能力を得た戦闘機人を配下に従えている。 これまで機動六課とはロストロギア、レリックを巡って幾度も戦ってきた。 実はスバルの正体も戦闘機人だ。製作者はスカリエッティではないが、この巡り合わせに何か因縁めいたものを感じていた。 「おい、お前たち。そっちはどうだ?」 赤い髪を二つの三つ編みにした、鋭い目つきの小さな少女がやってくる。スターズ分隊副隊長のヴィータだ。ヴィータの肩には、手の平サイズの少女、ユニゾンデバイスのリインフォースⅡが腰かけ、後ろにはライトニング分隊の二人が控えていた。 明るい雰囲気の少年がエリオ、大人しい雰囲気の少女が竜召喚師のキャロだ。 「異常ありません」 「今のところ、どこも異常ないみたいです」 青い髪を腰まで伸ばした女性も、スバルたちと合流する。陸士108部隊から機動六課に出向しているスバルの姉、ギンガだ。 「このまま何事も起こらなければいいんですが」 『未知の高エネルギー反応確認! 敵戦力は推定AAAランクが三人です』 機動六課ロングアーチスタッフ、シャーリーから、敵出現の連絡があったのは、その直後だった。 「未知のエネルギー? 戦闘機人か?」 ヴィーが訊いた。戦闘機人は魔力とは異なるエネルギーを使用する。 『違います。魔力反応に似ていますが、これまで観測されたことがないものです。ガジェットの反応もありません』 「スカリエッティじゃないのか?」 スカリエッティが関わっているなら、大量のガジェットが現れるはずだ。ガジェットに搭載されたAMFによって、相手の魔法を妨害するのが奴らの基本戦術だ。 ヴィータは周辺の地図を投影する。三人の襲撃者はまったく別方向から一直線に地上本部を目指していた。 ヴィータは敵の正体を詮索するのを後回しにする。どうせ誰であろうと、敵ならば倒さなければならないのだ。 「三人か。エリオとキャロは、はやてたちにデバイスを届けろ」 「わかりました!」 地上本部内はデバイスの持ち込みが禁止されている為、中にいるはやて、なのは、フェイト、シグナムのデバイスは、ヴィータたちが預かっていた。 デバイスを受け取ったエリオとキャロが、急いで建物の中に戻っていく。 「北は私とリインが担当する。お前たちは東南の敵に当たれ」 残りの敵は他の部隊に任せることにする。 「了解!」 全員バリアジャケットを装着し、戦闘準備を整える。 「行くぞ、リイン!」 「はいです。ユニゾン・イン!」 リインがユニゾンし、ヴィータの真紅のバリアジャケットが白へと変わる。 ヴィータとスバルたちは、それぞれの戦場へと向かって行った。 スバル、ティアナ、ギンガの三名は目的地へと急ぐ。敵はすでに警備部隊と交戦を開始している。 「何よ、これ!?」 警備部隊の情報に目を通していたティアナが、突然大声を出した。 地上本部の警備には質、量ともにかなりの人員が割かれている。しかし、その反応が急激に減っていく。 スバルたちが現場に到着した時には、すでに戦闘は終わっていた。 武装した局員たちが折り重なるように倒れ、かすかな呻き声を上げている。その中心でただ一人立っているのは、異様な風体の人物だった。 魚を模した、太陽の如き輝きを放つ黄金の鎧。目深にかぶった兜のせいで、その表情はうかがえない。右手には、凄惨な現場には不釣り合いな黒いバラの花を持っている。 「何、あいつ?」 ティアナが戸惑いの声を上げる。 敵が着ているのは、下手をすれば自らの動きを阻害しかねない全身鎧だ。バリアジャケットにしては、あまりにもごつい。では、敵の正体は一体何なのか。 「ピラニアンローズ」 こちらを察知した黄金の闘士が、黒バラを投擲する。 スバルは咄嗟にバリアを展開した。まるで投げナイフのような黒バラが、バリアを食い破りスバルの袖を掠める。それだけでバリアジャケットの袖が抉れ、下の皮膚に一条の赤い線が走る。 破壊力が尋常ではない。この黒バラの前では、バリアジャケットなど紙同然だ。 「スバル、行くよ!」 ティアナが二丁拳銃型デバイス、クロスミラージュから魔力弾を撃つ。スバルとギンガのローラーブーツが大地を疾走し、挟み込むように接近する。 「もらった!」 スバルとギンガが渾身のストレートを繰り出す。しかし、その瞬間、敵の姿が視界からかき消えた。 「えっ?」 スバルとギンガが呆気に取られる。 「スバル、後ろ!」 ティアナからの警告。振り向く間もなく、スバルは背中を強く蹴られ、無様に地面に倒れ伏す。 「この!」 ティアナとギンガが躍起になって黄金の闘士を攻め立てるが、繰り出す攻撃がことごとく空を切る。 (速い! まさかフェイト隊長以上!?) 一方的に攻められながら、敵からは明らかな余裕が感じられた。最初の一撃以来攻撃してこないのも、できないのではなく、己がどれだけ速く動けるか試しているようだった。 「私を忘れるな!」 起き上がったスバルが、右側から足払いをかける。敵の動きが一瞬乱れるが、それだけだった。スバルの頭上を飛び越えて、はるか後方に着地する。 (今の見た?) ティアナが念話で仲間たちに話しかける。 (うん。あいつ、右側の攻撃に反応が一瞬遅れた。もしかしたら怪我してるのかも) (なら、そこを狙うしかない) スバルたちは呼吸を合わせ、突撃するタイミングを計る。 「ふむ。やはり視界が悪いな」 その矢先、敵が兜を脱いだ。長い銀色の髪がこぼれ落ち、右目を覆う黒い眼帯が露わになる。黄金の闘士の正体は、小柄な少女だった。 「お前は!?」 「私はナンバーズ、チンク。タイプゼロ、お前たちと同じ戦闘機人だ」 スバルの疑問に、少女が答えた。タイプゼロは、スバルとギンガの異称だ。 「あっれー? まだ終わってなかったっスか?」 朗らかな声と共に、新たな少女が乱入してくる。 翼を生やした黄金の鎧に、右手に弓を携えている。チンクの物とは違い、兜はヘッドギア型で、楽しげに笑っているのが良く見える。 「ウェンディ」 チンクが弓を持った少女の名を呼ぶ。 「こっちはまあまあ強かったっスよ」 ウェンディの笑みに残酷なものが混じる。翼の後ろに隠していたものを、スバルたちのそばに投げ捨てる。 「ヴィータ副隊長! リイン曹長!」 スバルが悲鳴を上げる。 ウェンディが投げたのは、ぼろぼろになったヴィータとリインだった。ティアナが容体を調べるが、命に別状はないようだった。 「そんなヴィータ副隊長が負けるなんて」 ギンガも動揺を隠せない。 「へえ。チンク姉が手こずってるとなると、少しは骨がありそうだな」 続いて、黄金の鎧を着た赤い髪の少女が、スバルたちの後方からやってくる。色こそ違うが、顔立ちはスバルに瓜二つだった。 「ノーヴェ、そっちももう終わったのか?」 「ああ。手応えのない連中ばっかりで、準備運動にもならなかった」 ノーヴェと呼ばれた赤い髪の少女が、たてがみを模した兜の下で、唇を不機嫌そうに尖らせる。 ティアナの背を冷たい汗が滑り落ちる。チンク一人でも倒せなかったのに、おそらく同等の実力を持った戦闘機人が二人も増えた。 ユニゾンしたヴィータでさえ敵わなかった相手だ。普通なら撤退を考えるところだが、囲まれていてはそれも難しい。 「チンク姉とウェンディは休んでてくれ。こいつらは私がやる」 「まだ実戦テストは充分じゃないんだ。あまり無茶はするな」 「わかってるよ。チンク姉は心配性だな」 ノーヴェが気のない返事をする。 ノーヴェの注意が、こちらからそれたと見るなり、スバルが走り出した。リボルバーナックルのカートリッジをロードし、魔力を右拳に集中させる。 ノーヴェは煩わしそうに振り向くと、同じように右拳を繰り出す。 「一撃必倒、ディバインバスター!」 「ライトニングボルト!」 空色の拳と黄金の拳が正面から激突する。ノーヴェの拳がわずかに押し戻される。 (いける!) スバルが再びカートリッジをロードする。速度はノーヴェの方が上かもしれないが、威力はこちらがわずかに勝っている。畳みかければ、勝機はある。 スバルを援護しようと、ギンガが飛び出し、ティアナがクロスミラージュを構えた。 ノーヴェは無造作に右腕を前に突き出した。 『エネルギー反応さらに増大! 推定オーバーS!』 「ライトニングプラズマ!」 シャーリーの警告と、ノーヴェが技を放ったのは、まったく同時だった。 スバルたち三人の視界を、閃光が縦横に瞬いたと思った次の瞬間、体が宙に舞っていた。 「……えっ?」 わずかに遅れて、激痛が全身を駆け巡る。想像を絶する速度で、滅多打ちにされたのだ。スバルが、ティアナが、ギンガが受身も取れず地面に激突する。 「よし。これで終わりだな」 「そうでもないみたいっスよ」 勝利を確信したノーヴェを、ウェンディがからかう。 「まだ……負けてない」 痛みを訴える腕と足を無理やり動かし、スバルとギンガが立ち上がる。だが、強がりなのは明白だった。膝は震え、両腕を上げる力すら残されていない。 必殺技を使って仕留めきれなかったことは、ノーヴェの癇に障った。舌打ちと共に、再びライトニングプラズマを放つ。 ギンガが最後の力を振り絞り、スバルをかばう。 「ギン姉―――――――――――っ!!」 スバルが絶叫した。目の前で、ギンガが黄金の閃光によって徹底的に打ちのめされていく。それだけでは飽き足らず、閃光はギンガごとスバルを吹き飛ばす。 今度こそスバルたちが動かなくなったのを確認し、ノーヴェがウェンディに尋ねた。 「タイプゼロは捕獲だったな?」 「なんか、してもしなくても、どっちでもいいって言ってなかったスか?」 「そういうの一番困るんだよな。はっきりしてくれないと」 「悩む必要はない。連れて行って、ドクターの判断を仰ぐとしよう」 チンクがスバルに手を伸ばす。その手を、突如飛来した鎖が阻んだ。 「そこまでだ!」 ペガサスの意匠が施された白い鎧と、赤い服を着た少年が、ノーヴェたちの前に立ち塞がる。 「君たち、大丈夫?」 駆けつけたもう一人が、スバルたちを気遣う。輝く薄紅色の鎧に、長い一本の鎖を両腕に巻きつけている。 (女の子?) スバルは朦朧とした意識で相手を見上げる。 「後は僕たちに任せて」 肩まで伸びた緑色の髪に、綺麗な顔立ち。しかし、声はやや高めだが男のものだった。色といい、丸みを帯びた形状といい、鎧が女性的なので、ややこしいことこの上ない。 二人の少年が肩を並べ、ナンバーズたちと対峙する。 「お前たち、聖闘士(セイント)か?」 チンクが問いかける。 「ああ、そうだ。盗んだ黄金聖衣(ゴールドクロス)、耳をそろえて返してもらうぜ!」 白い鎧の少年が、威勢よく言った。 その頃、地上本部の指揮管制室は、大混乱に陥っていた。 「何故だ!? 何故、たった三人の賊が抑えられん!」 指揮官が腹立ち紛れに机を叩く。 モニターに表示されているのは、おびただしい数の倒された武装局員たち。このままでは全滅も時間の問題だ。 「システムの復旧はどうした!」 「もう少し時間がかかります!」 戦闘機人の襲撃とほぼ同時に、本部のシステムがクラッキングを受けていた。建物内では隔壁が勝手に締まり、人々を中に閉じ込めている。エレベーターも使用不能だ。 「とにかく残っている部隊の再編成を急げ。賊を絶対に中に入れるな!」 「それがとっくに入ってるんだな」 場違いに明るい声が、耳元で囁く。指揮官は凍りついたように動きを止めた。いや、比喩ではなく、本当に凍りついていた。 驚く管制官たちの前で、黄金の鎧を着た水色の髪の少女が、頭上で両腕を組み合わせた。前腕部の装甲が水瓶を形作る。 「オーロラエクスキューション!」 振り下ろされた水瓶の先から、絶対零度の凍気が撃ち出された。室内が氷で覆い尽くされていく。 「手加減はしたから、多分死んでないよね。それにしてもすごい能力」 氷の彫像と化した管制官たちを、ナンバーズ、セインは感心したように眺める。 ミッドチルダとは別の世界に、聖闘士と呼ばれる正義の闘士たちがいた。彼らは星座の聖衣(クロス)を身にまとい、小宇宙(コスモ)と呼ばれるエネルギーを燃やし戦う。その拳は空を裂き、蹴りは大地を割る。 八十八いる聖闘士の中でも、黄道十二星座を司る最強の黄金聖闘士(ゴールドセイント)に至っては、放つ拳は光速に達する。 セインは自らがまとう水瓶座(アクエリアス)聖衣を愛しげに撫でる。苦労して盗み出した甲斐があったというものだ。 かろうじて生き残ったモニターには、姉妹たちの姿が映し出されている。 魚座(ピスケス)聖衣のチンク。射手座(サジタリアス)聖衣のウェンディ。獅子座(レオ)聖衣のノーヴェ。誰も彼も絶好調のようだ。 「ドクターはやっぱり天才だね」 聖衣の胸部装甲の裏側に、結晶型の小型機械が取り付けられていた。 聖衣にはこれまでの装着者の記憶が蓄積され、聖衣の意思を形成している。スカリエッティの開発したこの機械は、聖衣の意思に働きかけ、ナンバーズを本来の装着者に、敵対する者を邪悪な戦士と誤認させる。 さらに黄金聖衣の持つ力を、体内に直接送り込むことで、装着者のコスモを強制的に覚醒させ、黄金聖闘士の域まで高めてくれる。 コスモ自体はあらゆる人が持つエネルギーだが、習得には長く厳しい命懸けの修行が必要になる。スカリエッティの発明は、その過程を省略する画期的な物だった。 難点は、黄金聖闘士ぎりぎりの力しか発揮できないことと、聖衣が男性用なので胸元が少々窮屈なことくらいだ。 「さてと、お仕事、お仕事」 引き続き破壊工作と、内部の連中の足止めをしなければならない。セインは軽い足取りで、指揮管制室を出て行った。 次元を超えて現れた白い鎧の少年、ペガサス星矢は、ナンバーズを見て、苦々しい表情を浮かべた。 「全員女かよ。やりにくいな」 「油断しないで、星矢。どんなからくりかわからないけど、彼女たちは黄金聖闘士の技が使えるみたいだ」 薄紅色の鎧の少年、アンドロメダ瞬が鎖を構える。 二人とも、聖闘士の中では最下級の青銅聖闘士(ブロンズセイント)だが、かつて黄金聖闘士と戦い勝利を収めたことのある猛者たちだ。 「わかってるよ」 星矢と瞬が戦闘態勢を取る。 「面白ぇ。腕試しの相手になってもらうぜ」 ノーヴェが右腕を前に突き出すと、機械が聖衣の意思から技のデータを読み取り再現する。 「ライトニングプラズマ!」 光速拳が、連続で放たれる。 「燃えろ、俺のコスモよ!」 星矢が叫び、黄金の拳の嵐の中に踏み込む。常人では視認することさえ不可能な連撃を星矢は紙一重でかわしていく。 「所詮はサル真似だな。本物のライトニングプラズマより、速度も精度も劣る!」 ライトニングプラズマは一秒間に一億発の拳を相手に叩き込む技だ。しかし、ノーヴェのライトニングプラズマはそれより一万発少ない。 「聖闘士に同じ技は通用しない。まして劣化コピーなんて話にならないぜ!」 星矢とノーヴェの隣で、瞬とチンクも戦闘を開始する。 「ピラニアンローズ!」 「ネビュラチェーン!」 瞬の鎖が生き物のように動き、チンクの投げる黒バラを絡め取る。 「どうやら、あなたたちは全ての技を使えるわけではないようだね」 チンクの黒バラはよく見ると、金属で出来た造花だった。 威力の低下を武器で補ったのだろうが、これではピスケスの他の技、ロイヤルデモンローズとブラッディローズは使えない。 ピスケスの黄金聖闘士アフロディーテは、香気だけで人を死に至らしめる恐ろしい毒バラの使い手だった。しかし、毒バラを使うには、自らもその毒に耐えねばならない。技は真似できても、耐毒性まで再現はできなかったのだろう。ならば、恐ろしさは半減する。 星矢の蹴りが、瞬の鎖が、ノーヴェとチンクを後退させる。 「これで終わりだ!」 星矢が勢いよくノーヴェに接近する。ノーヴェはにやりと笑った。 「ライトニングプラズマ!」 「同じ技は……何!?」 次にノーヴェが放ったのは、光速の蹴りだった。拳とは異なる軌道を描くそれを避けきれず、星矢が天高く蹴り上げられる。 「私は蹴りの方が得意なんだよ!」 ノーヴェの足元から、光の道が螺旋を描いて伸び、空中にいる星矢を取り囲む。ノーヴェの能力、エアライナーだ。 「聖闘士は飛べないんだよな」 ノーヴェは光の道を駆け、落下しようとする星矢をサッカーボールのように蹴り上げていく。空中では、星矢に防御以外の選択肢はない。 「星矢!」 「余所見をするとは余裕だな。IS発動ランブルデトネイター」 チンクが指を弾くと、鎖に絡め取られていた黒バラが爆発を起こす。 「うわぁああああああっ!」 チンクのISは無機物を爆発物に変える。バラを造花に変えたのはこの為だった。 「私たちの技を、劣化コピーと言ったな」 チンクは両手に新たなバラの花を構える。 「認めよう。しかし、我らにはそれを補う別の能力がある!」 聖闘士は相手の技を見切ることを得意とする。しかし、それは相手も同じコスモの使い手だからだ。異なる原理で動く戦闘機人のISを、容易く見切ることはできない。 黒バラが、瞬の周囲で次々と爆発する。鎖と聖衣で多少軽減されているが、爆風が瞬をその場に縫いつける。 「そろそろ私も参加させてもらうっス。ISエリアルレイブ」 サジタリアスの翼が発光し、星矢とノーヴェを追いかけて飛ぶ。 ウェンディのISは、固有装備のライディングボードを扱う為のものだが、今はサジタリアス聖衣と連動している。元々若干の飛翔能力を持っていたサジタリアスの翼と、ウェンディのISの相乗効果により、自在に飛行が可能となっていた。 「同じ技は通用しない。なら、見たことない技ならいいんスよね」 ウェンディがコスモを右拳に集中させる。 「アトミックサンダーボルト!」 サジタリアスの黄金聖闘士アイオロスはすでに故人であり、星矢たちは実際に会ったことがない。まして、その技を知るはずがない。 ウェンディの光速拳が星矢に迫る。 「エクセリオンバスター!」 星矢の背後から発射された桜色の光線が、ウェンディの拳と激突し、威力を相殺しあう。 「!?」 ノーヴェとウェンディの攻撃の手が止まる。 地面へと落下を始めた星矢の体を、誰かが受け止めた。 星矢は痛みに顔をしかめながら、助けてくれた相手を仰ぎ見た。 「あんたは?」 「私はなのは、高町なのは」 白を基調としたバリアジャケット。栗色の髪は白いリボンでツインテールにまとめられ、左手には赤い宝石がついた長い杖を持っている。 「話は後で。まずはこの状況をどうにかしないと」 なのはは険しい面持ちで、ナンバーズたちを見据えた。 目次へ 次へ
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ノーヴェ、ウェンディ、チンクの三名は、天然の洞窟を利用して作られたスカリエッティのアジトへと戻って来ていた。 思わぬ邪魔が入ったが、作戦目標である時空管理局地上本部並びに機動六課の制圧と、コスモと黄金聖衣の性能を確認できた。これだけの力があれば、聖王の器の確保などいつでもできる。 「くそ、あいつら!」 しかし、ノーヴェは戦いの途中で撤退させられて、いたく不機嫌だった。ガチャガチャと足音荒く洞窟内を歩く。しかも、ノーヴェの不機嫌に拍車をかけている事柄がもう一つあった。 「おい、いいかげん降りろ!」 「やだっスよ」 狭い通路の天井すれすれをウェンディが飛んでいるのだ。黄金の翼が羽ばたくたびに、ノーヴェたちの頭にぶつかりそうになる。 「それにしてもこの翼、いいと思わないっスか。このデザイン考えた人天才っス」 ウェンディは陶酔したように、サジタリアスの翼に頬ずりする。 チンクは不思議そうにウェンディを見上げた。 「前から疑問だったのだが、射手座とは弓矢を持った半人半馬ではなかったか? どうして翼があるのだ?」 黄金聖衣が支給される際に、ナンバーズは星座の伝説も一緒に教えられている。 「細かいことはどうでもいいんスよ。ほら、こうするとキューピットみたいで、いいっスよね~」 ウェンディは空中で弓矢を構えてポーズを決める。 本人は可愛いつもりなのかもしれないが、ごつい鎧で本物の弓矢を構えられたら、勇ましいという表現しか出てこない。しかも射抜くのは、恋心ではなく正真正銘の心臓だ。これを可愛いと言う奴がいたら、正気を疑う。 「知るか」 ウェンディはサジタリアス聖衣がいたくお気に入りのようだった。ノーヴェにはどうでもいいことだが。 「あー。そんなこと言っていいんスか? ノーヴェだって気に入ってるくせに。アレンジ技なんて習得したの、ノーヴェくらいっスよ」 ツンツンと指でノーヴェの頭のてっぺんをつつく。 ライトニングプラズマは蹴りでもできるはずだと、ノーヴェが訓練室にこもりきりになったのを、ウェンディはしっかり記憶している。幸い、聖衣の意思に雛型の様な動きがあったので、短期間でノーヴェは蹴り技のライトニングプラズマを習得できた。 「うるせぇ」 ノーヴェが悪態をつくが、頬を赤らめているので図星だったのが丸わかりだ。 やがてスカリエッティのいる部屋へと到着する。そこにはすでに他のナンバーズが集結していた。薄暗い部屋を、黄金聖衣の輝きが照らし出している。 ナンバーズの大半は、ドゥーエを興味深げに見ていた。長期の潜入任務のせいで、ドゥーエはほとんどの姉妹と面識がないのだ。 「お帰り、諸君」 たくさんのモニターと機械を背に、白衣を着たスカリエッティが椅子に腰かけていた。優男風の容貌から、隠しきれない狂気を漂わせている。 「どこか不具合はないかね?」 帰還したナンバーズに、スカリエッティが労わるように尋ねてくる。スカリエッティにしては、少々珍しいことだった。 黄金聖衣を入手してから、わずかな日数で実戦投入可能にしたスカリエッティの頭脳は、天才の一語に尽きる。だが、充分なテストもなしに実戦に送り込んだことに不安があったのかもしれない。 「いえ、まったく問題ありません」 「そのようですね。取りつけた機械は正常に作動。ナンバーズの肉体に悪影響も認められません」 ウーノが妹たちの身体状況をつぶさに調べ、そう結論づけた。もっとも不安視されていたディエチのイノーメスカノンも、数カ所不具合が出ているだけだった。これで問題点が明らかになったので、次回にはコスモとISの併用に耐えられるよう改良できる。 「そうか。だが、念には念を入れて、精密検査を行おう。その後は……」 スカリエッティは一呼吸置くと、芝居がかったしぐさで両腕を広げた。 「時空管理局を破壊し、理想の世界を築き上げる!」 つまらない倫理観や法に縛られることなく、自由に研究を行う。それがスカリエッティの理想だった。 そこでセインが手を上げた。 「ところでさ、ドクター。せっかく私らパワーアップしたんだし、新しい名前考えない? ナンバーズだけじゃ味気なくって」 「では、ゴールドナンバーズでどうかね?」 間髪いれずに答えられ、セインは提案したことを後悔した。スカリエッティが名前にこだわらない性質なのは理解していたが、安直かつダサい。 この名前は明らかに不評らしく、ディエチ、ノーヴェ、ウェンディが、セインを視線で責め、チンクが微妙に嫌そうに、トーレまで渋い顔をしていた。 「ドクター。ゾディアック・ナンバーズというのはいかがでしょうか?」 妹たちの困窮を見かねたのか、ウーノが提案した。ゾディアックは黄道十二星座を意味する。 「それがいいです!」 セインが声高に賛成した。こちらもそのままではあるが、ゴールドナンバーズよりはましだ。それにこの話題をこれ以上続けると、もっと変な名前にされかねない。 「では、そうしよう。これから君たちはゾディアック・ナンバーズだ」 スカリエッティが認めたことで、ナンバーズの間にほっとした空気が流れる。 そんな中、使う機会もほとんどない名前に一喜一憂する姉妹たちを、クアットロは蔑みに満ちた眼差しで見つめていた。 ナンバーズの襲撃があった翌朝、六課で唯一残った棟の一室で、はやては隊員たちの入退院の手続きと、報告書の作成に忙殺されていた。 シグナムは地上本部の現場検証に行っており、なのはは六課預かりとなった星矢たちの世話をしてもらっている。 窓の外には、残骸と化した六課の建物たち。こうして部屋で一人黙々と作業を続けていると、はやてはまるで自分が廃墟の主の幽霊になってしまったかのように錯覚してしまう。 (あかんな。疲れとる証拠や) 徹夜には慣れているが、今回は精神的疲労があまりにも大きく、脳が睡眠を欲していた。 隊員たちは、非戦闘要員を含めてほとんどが負傷した。相手が手加減してくれたこともあって死者は出ていないが、無傷で済んだのは、はやて、シグナム、なのはのみ。 軽傷の者は今日の午後には退院してくる予定だが、フォワード部隊ではギンガの負傷が酷く、復帰には少なく見積もっても数週間はかかると診断されている。フリード、ヴォルテールも同様で、大幅な戦力減だ。 はやては書類の作成に区切りをつけると、前回の戦闘で判明した聖闘士のデータに目を通した。 急ピッチで書かれた為、誤字脱字が散見できるが、ここはこれだけ早く仕上げてくれたことに感謝すべきだろう。 聖衣は未知の材質で構成され、かなりの強度とわずかながら自己修復機能を持つ。魔力ダメージも軽減でき、微弱ながら意思のようなものも存在するので、バリアジャケット型デバイスと言ったところだろうか。 壊れても再構成できないが、防御力はバリアジャケットを上回る。黄金聖衣に至っては、どれだけの強度を誇るのか、想像もつかない。 次に聖闘士が扱うコスモというエネルギー。魔力によく似た性質を持つが、運動能力と攻撃力の強化に特化しており、射程は短いが魔力の様に撃ち出すことも可能。 攻撃力は六課隊長クラスならどうにか渡り合えるレベルだが、問題は光速に達するスピードだ。光速の技を回避する術は魔導師にはなく、また光速で動く相手に命中させる方法もない。 「はやてちゃん」 「うん。わかった」 なのはに呼ばれ、はやては廊下に出た。 「なのはちゃん、ナンバーズと実際に戦ってみた感想はどうやった?」 聖闘士たちの待つ部屋へと向かいながら、はやては質問した。 「正直、一対一で勝つのはかなり難しいね。あまりにも速すぎる」 星矢と瞬が足止めしてくれなければ、魔力チャージする時間もなく、例え発射したところでかすりもしなかっただろう。 「フェイトちゃんなら?」 「リミットブレイクを使えば、近い速度は出せるかもしれない。でも、一発でも掠めたら終わり。分のいい賭けじゃないね」 相手の防御を抜く前に、撃墜されるだろう。そもそも真・ソニックフォームはスピードと火力で相手を圧倒することが前提であって、自分より速く固い相手をするには不向きだ。 Sランク魔道師二名でも勝ち目がない相手が、十二人もいる。 正式な辞令はまだだが、六課はレリック捜索から、スカリエッティ逮捕に任務が切り替わるだろう。あの強敵に――黄金聖闘士の力を手に入れたナンバーズに、再び挑まないといけないとなると、頭が痛い。 「星矢君たちが協力してくれそうなのが、不幸中の幸いか」 彼らは黄金聖衣を取り返すのが目的だ。利害は完全に一致している。 そうこうするうちに、目的の部屋へとたどり着く。 少し広めの部屋に、聖闘士四名が思い思いに座っていた。 聖闘士たちは聖衣を脱ぎ、シャツとズボンというラフな格好をしていた。紫龍だけは薄紫の拳法着を着ていたが。 皆、スバルより年下らしいが、身長もあるし、だいぶ大人びて見える。星矢と瞬が十三歳、紫龍と氷河が十四歳というのが数え間違いにしか思えない。 「私は時空管理局所属、八神はやて二等陸佐。この機動六課で部隊長をしてます」 はやては敬礼をしながら星矢たちに挨拶する。 「星矢だ」 「紫龍」 「氷河」 「瞬です」 聖闘士たちが簡潔に名乗り返す、 「遅くなりましたが、まずはお礼を言わせて下さい。仲間たちを助けてくれて、ありがとうございます」 「何、いいってことよ」 「ちょっと星矢、失礼だよ」 頭の後ろで腕を組んで得意げにしている星矢を、瞬がたしなめる。助けてもらったのはお互い様だ。 紫龍が立ち上り、一礼した。 「こちらこそ宿と食事の手配をしていただき、ありがとうございます」 「いえいえ、たいしたもてなしもできませんで」 食堂も壊れてしまったので、星矢たちには出前を取ってもらった。 星矢たちが助けてくれなければ、スバルとギンガ、ヴィヴィオはさらわれていたかもしれないのだ。時間が許すなら、腕によりをかけたごちそうで、感謝の意を示したいくらいだった。 もっとも少年時代を厳しい修行に費やしていた聖闘士たちにしてみれば、充分満足できる食事内容だったのだが。 星矢が、なのはとはやての顔を見た。 「ところでさ、あんたら日本人だろ?」 「そうだよ」 なのはが首肯する。 「やっぱり。名前を聞いた時にピンと来たんだ。じゃあ、俺たちのことを知らないか?」 星矢たちはかつてグラード財団主催の格闘技イベント、ギャラクシアンウォーズに出場したことがある。メディアでも大々的に報道されたので、星矢たちはそれなりに有名人なのだ。 「ごめん。私たち最近ほとんど故郷に帰ってないから」 なのはが気まり悪げに言った。 任務や休暇でたまに帰る日があっても、さすがに流行を追えるほどではない。俳優やスポーツ選手くらいならいいが、いずれ故郷のファッションと致命的なずれが生じないかと、なのはは密かに危惧している。 「君たちは、どうやってミッドチルダに来たの?」 「それは……」 紫龍はゆっくりと事情を語りだした。 時空管理局地上本部襲撃事件より一週間と少し前、ミッドチルダから遠く離れた世界、1980年代後半、地球、ギリシャにて。 アテナの化身、城戸沙織を守ろうとする星矢たち青銅聖闘士と、教皇率いる黄金聖闘士たちが死闘を繰り広げたサガの乱が終わって間もなく、白羊宮の主ムウは十個の黄金聖衣を前にしていた。 「やはり細かい傷がついていますね」 アリエスの黄金聖闘士にして、聖衣修復師でもあるムウは、黄金聖衣を一つずつ確かめていく。 「黄金聖衣に傷をつけるとは、さすがと言うべきでしょうか」 そのままでいいと言われているタウラスの折れた左の角と、戦闘に参加していないアリエスの聖衣は必要ないが、他は修復しなければならない。 サガの乱では五人の黄金聖闘士が命を落とした。 ライブラの童虎は中国の五老峰から動けず、サジタリアスのアイオロスはサガの乱以前に他界し、二人の聖衣はそれぞれの宮に安置されている。現在、聖闘士の総本山、サンクチュアリを守護する黄金聖闘士は五人しかいないのだ。 聖衣修復の材料を取りに、ムウは白羊宮を後にした。 それから数分後、ムウがかすかな異変を察知し、白羊宮に戻った時には、すでに十個の黄金聖衣は影も形もなくなっていた。 「これは……!」 (聞こえるか、ムウ!) ムウにテレパシーで話しかけてくる者があった。 バルゴのシャカの声だ。最も神に近い男と呼ばれ、普段は冷静沈着なシャカが、珍しく焦燥を滲ませている。 (天秤宮と人馬宮に賊が入り、ライブラとサジタリアスの黄金聖衣が盗まれた!) 「馬鹿な。どうやって天秤宮と人馬宮まで」 サンクチュアリは結界に守られており、黄金聖闘士の守護する十二宮を順番に上がっていく以外に道はない。第一の宮である白羊宮はまだしも、奥にある天秤宮と人馬宮に、黄金聖闘士に悟られず侵入できるはずがない。 (気配を辿ってみたが、賊はどうやら次元の向こう側から来たようだ) 最も神に近い男の二つ名は伊達ではなく、シャカは時空や異次元を行き来する力を持つ。さすがに単身で別世界に行くことはできないが、その存在は感じ取っていた。 ムウたちは預かり知らぬことだったが、ナンバーズは空から侵入したのだ。鉄壁の要塞であるサンクチュアリも、空からの侵入には無防備だった。 「アテナよ!」 ムウはサンクチュアリの最奥、アテナ神殿にいる城戸沙織にテレパシーを送る。 (ムウよ。わかっています。黄金聖衣を盗まれたのですね) 凛とした声が応える。沙織もサンクチュアリの異変を感じ取っていた。 「申し訳ありません。このムウ、一生の不覚。かくなる上は、私自らが黄金聖衣奪還を……」 (なりません) 「何故です?」 (これ以上、サンクチュアリの防備を手薄にするわけにはまいりません) 「では……」 (黄金聖衣奪還の任務は、星矢たちに託します) テレポーテーションが使えるムウ、次元移動ができるシャカに、アテナの化身である沙織が力を合わせれば、星矢たちを別世界に送り込むことも可能だろう。 だが、沙織の声にわずかに潜む苦悩の色に、ムウは気がついた。 沙織とて、ようやく傷が癒えたばかりの星矢たちを頼るのは心苦しい。だが、サガの乱を経て、ようやくアテナと認められたばかりの沙織には、他に頼れる者がいないのだ。 こうして星矢たち四名が集められ、ナンバーズを追ってミッドチルダへと送り込まれた。 だが、次元移動の衝撃で、星矢と瞬は地上本部付近に、紫龍と氷河は機動六課近辺へと、別々の場所に転送されてしまったのだ。 「本当ならもう一人、僕の兄さんが来るはずだったんですが……所在がつかめなくて」 紫龍の説明後、瞬が残念そうに付け加えた。 「なるほどな」 はやては平静を装っていたが、内心では頭を抱えていた。 受肉した神が実在し、人間が魔力もなしに音速や光速で技を放ち、挙句に次元移動すら行うなど、どれだけでたらめな世界なのか。聖闘士を実際にこの目で見ていなければ、一笑に付すところだ。 いくつか気になる項目があったので、なのはが調べる為、部屋を出ていく。 その間に、はやてはミッドチルダの説明を始めた。 自分たちが魔道師であること、時空管理局が次元世界の警察のようなものであること、黄金聖衣を盗んだのがスカリエッティ一味であることなどだ。 「魔法か。まさか実在するとはな」 これまで黙っていた氷河がぽつりと言った。だが、生身の人間が飛行する姿を見せられれば、信じるしかなくなる。 「なあ、もしかして修行すれば、俺たちも魔法が使えるようになるのか?」 星矢が期待を込めて訊いた。 「残念やけど、星矢君たちは魔力を持ってへんからな」 「なんだ、コスモとは違うのか」 星矢はがっかりしたようにうなだれた。 「お待たせ」 なのはが戻ってくる。実家に連絡して紫龍の話の裏を取ってもらったのだが、やけに決まり悪そうにしている。おそらく姉の高町美由希あたりに、たまには任務以外で帰ってこいと、小言を言われたのだろう。こういうところは、なのはも普通の女の子だ。 「お姉ちゃんがネットで検索かけてくれたけど、ギャラクシアンウォーズ、聖闘士、グラード財団、どれもヒットはなし。お父さんとお母さんも知らないって」 はやては自分の推測が当たっていたと確信した。 聖闘士たちが来たと言う1980年代後半は、はやてたちが生まれるよりも前の年だ。だが、聖闘士たちが過去から来たわけではない。 いくら人の興味が移ろいやすいものでも、一切の記録が残っていないというのは考えにくい。ならばギャラクシアンウォーズは、はやてたちの世界では起きていないのだ。 「地名、言語、文化、科学技術、歴史、ここまでそっくりなのも珍しいけど、パラレルワールドやな」 次元の海に浮かぶ数多の世界の中には、どういうわけかよく似た世界がいくつか観測されている。特に地球という名前の知的生命体の住む星は多い。 「どういうことだ?」 「つまり、星矢君の世界と、私たちの故郷はまったく別の世界ってこと」 なのはは一応、パラレルワールドについて説明してみたが、生返事しか返ってこなかった。聖闘士たちにとってはどうでもいい話だ。 「そろそろいいだろう」 今度の方針について話し合おうとした矢先、氷河が席を立った。星矢たちも氷河にならう。 「ちょ、ちょっと、どこに行くつもり?」 「黄金聖衣を取り返しに」 氷河が毅然と言った。 「俺たちは、聖闘士について教えて欲しいと頼まれたから残っていただけだ。俺たちも、この世界について少しは知っておきたかったしな。それが果たされた以上、一刻も早く黄金聖衣を取り戻さねばならん」 「当てがあるの?」 「ナンバーズとかいう連中のコスモを探せばいいんだろ。とにかく足で探すさ」 と、星矢。 なのはは絶句した。聖闘士は相手のコスモを感じ取れるらしいが、彼らはミッドチルダ中を走り回るつもりのようだ。本気なのは、気配でわかる。 「いや、でも、勝算は?」 星矢と瞬だって、ナンバーズには苦戦を強いられていた。三倍の数の敵にどう挑むつもりなのか。 「関係ありません。俺たちはアテナの聖闘士として使命を全うするのみ」 紫龍が己の拳を握りしめる。 星矢たちの戦いで、勝算があったことなどほとんどない。格上の白銀聖闘士や黄金聖闘士を相手に、圧倒的劣勢から常に命がけで勝利をつかみ取ってきた。 「でも、敵の半数以上は飛んでるんだよ?」 「跳べばいいだろ」 「跳ぶって……」 飛行に跳躍で挑もうと言うのか。聖闘士の跳躍力なら不可能ではないだろうが、あまりに無謀すぎる。 はやてはぽかんと口を開けた。 「なのはちゃんより無茶な子たち、初めて見たかも」 「八神部隊長も、止めるの手伝って下さい!」 役職名を強調して、なのはが叫ぶ。ただでさえ不利なのに、聖闘士と六課が連携できなければ、勝利は絶望的だ。 はやては自分の考えが甘かったことを悟った。 聖闘士は魔導師とはまったく異なる種類の人間だった。打算や駆け引きとは無縁の、己の信念と正義にのみに生きる闘士たち。個人の強さを追求する聖闘士と、組織としての強さを追求する魔導師たちで、どうやって連携しろというのか。 しかし、このまま行かせるわけにもいかない。 「まあ、少し落ち着いて。スカリエッティのアジトは、時空管理局が捜索しとる。発見を待ってから動いても遅くないと思うけどな」 ナンバーズにコスモに抑えられたら、土地勘がない聖闘士たちは捜索手段がなくなる。 よしんばアジトを発見できなくとも、近いうちにスカリエッティは次の行動を起こすだろう。六課にいた方が、情報は早い。 「けどよ……」 「星矢君たちの、はやる気持ちはわかる。でも、急がば回れ。必勝を期して対策を立てておくのも悪くないと思うんよ」 聖闘士たちは黙って顔を見合わせた。 「ところで、コスモって誰もが持ってるエネルギーやったな?」 「ああ」 「だったら、私の仲間たちに伝授してくれへんかな? 今日の昼には退院する予定やし」 はやてが両手を合わせてお願いする。 「無駄だと思うぜ。俺たちだって、過酷な修行を六年も続けて、ようやく体得できたんだ。そもそも修行についてこられるかどうか」 「それに我らはまだ修行中の身、とても人に教えることは」 「まあまあ、紫龍君。そう難しく考えんと、教えてもらったことを教えてもらえるだけでええから。聖闘士と魔導師、相互理解の一環として。な?」 「はやてさんの言う通り、当てもなく捜し回るよりはいいんじゃないかな? 今回の敵は、僕たちにとって未知の敵なんだし、対策を練るのも悪くないと思うよ」 瞬が、はやてに賛同してくれた。 反論が出ないので、決まりのようだ。 「それじゃあ、先生役、よろしくな」 「……ま、しょうがないか」 星矢は渋々頷いた。 午後二時、退院してきたフェイトたちはトレーニングウェアに着替えると、森の訓練場へとやってきた。出迎えたなのはは、元気そうな仲間たちの姿に、ほっと胸を撫で下ろす。 シグナムは現場検証からまだ戻っていないし、はやては別件で出掛けてしまった。フォワード隊員七名で、準備運動を始める。 「でも、ちょっと面白くないです」 なのはから事の顛末を伝えられたティアナは、憤懣やるかたない様子で言った。 「だって、その言い方じゃあ、まるで魔導師が聖闘士より格下みたいじゃないですか」 機動六課だって血の滲むような訓練を積んできたのだ。やりもしないで、修行についていけないと決めつけないで欲しい。 「なのはさんは悔しくないんですか?」 「百聞は一見にしかず。とりあえずやってみようよ」 なのはがにこにこと笑いながら、ティアナを諭す。 これまでの訓練の発案者であるなのはが、怒るどころか相手を受け入れようとしている。 スバルはなのはの度量の広さに少し感動していた。 「ほら、なのはさんもこう言ってるんだし……?」 スバルが振り向くと、ティアナがいなくなっていた。視線をさまよわせると、ティアナは準備運動をしながら、少しずつ遠くへと離れて行っていた。 「何してるの?」 「あんた、まだ気づかないの?」 追いついて話しかけると、逆に憐れむように言われた。 「なのはさんの表情、さっきからまったく変わってないのよ」 スバルははっとして、なのはを振り返る。にこにこと無言で腕の筋を伸ばしている。いくらなのはが明るい性格でも、さすがにストレッチをやりながら笑顔になる理由はない。 深く静かに怒っているようだ。そのことに気がつくと、妙な威圧感がなのはの周囲に漂っているのがわかる。 「おっ、揃ったみたいだな」 聖衣を装着した聖闘士たちが姿を現す。 星矢はフォワード隊員たちを見渡すと、ヴィータに向かって笑いかけた。 「お嬢ちゃんは見学かな? 誰かの妹とか?」 「子供扱いすんじゃねぇ! 私はヴィータ、スターズ分隊の副隊長だ!」 「副隊長? お嬢ちゃんが?」 ヴィータが吠えると、星矢たちが目を丸くした。 ヴィータは厳密には人間ではなく魔法生命体で、年も取らない。だが、魔法を知らない相手に、守護騎士システムをどう説明してものかと、ヴィータは頭を悩ませた。 「あっ、わかった」 星矢がポンと手を叩いた。 「さてはあんた、魔法で若返ってるんだろう」 的外れな答えが返ってくる。そんな魔法は存在しない。 「…………もう、それでいいや」 説明が面倒くさくなり、ヴィータは投げ槍に言った。 「やっぱりそうか。魔法ってすごいんだな」 星矢は興味津々でヴィータを眺める。 「で、本当はいくつなんだ?」 ヴィータは星矢のすねを思いっきり蹴飛ばしてやった。 「えー。では、これより君たちに聖闘士の修行を体験してもらう」 各々自己紹介を済ませた後、整列した六課隊員を前に、星矢が両手を後ろに回して、胸を少しそらしながら言った。渋っていたはずなのに、ノリノリで先生役をやっている。 星矢の話は棒読みになったり、言葉がつかえて出て来なかったり、誰かの受け売りなのがバレバレだ。なまじ得意げにしているだけに、余計に滑稽な印象を与える。他の聖闘士たちも呆れたように星矢を見ていた。 (……なんだか、懐かしいね、ヴィータちゃん) (いや、私らはあんなに調子に乗ってなかっただろ) 先生役を務める星矢の姿が、教官資格を取ろうとしていた過去の自分の姿と重なり、なのはとヴィータは少しだけ和んだ。初めて教官役をやらされた時は、星矢と大して変わらない拙さだった。 星矢の話は要約すると二つだった。 一つ目は、己の肉体を極限まで鍛え、力と意志を一点に集中させることで原子を砕く“破壊の究極”を会得していること。二つ目は、体内のコスモを爆発させることで、聖闘士は超人的なパワーを生み出すということだった。 なのはたちは揃って疑問符を浮かべた。原子を砕くことが破壊の究極という理屈はわかるのだが、己の中の小宇宙だの観念的な話はさっぱりわからない。ためしに、体内に意識を凝らしてみたが、コスモの片鱗も感じられない。 まあ、そんな簡単に会得できるものでもないのだろうが。 「じゃあ、まずは体を鍛えるところから」 星矢の宣言に、なのはたちは気を引き締めた。 コスモが会得できるかどうかは別として、魔導師の矜持に賭けて修行について行ってみせるというのが、フォワード隊員の共通した意気込みだった。 星矢は傍らにある岩の上に手を置いた。星矢の体重の三倍はありそうな巨岩だ。 「この岩を体に括りつけて、逆さ吊りの体勢から、腹筋五百回やってみようか」 「「「無理です」」」 なのはたちの返事が綺麗に唱和した。 目次へ 次へ
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魔法少女リリカルなのはStrikerS 第17話【その日、機動六課(後編)】 ウーノ「作業内容確認。ドクターの夢にして、最重要プラン。その達成へ向けての第一歩。 ナンバーズ12人中、11人が作業に参加。騎士ゼストと召喚師ルーテシアも、任意協力。 作業内容は、管理局地上本部、及び機動六課の無血制圧。聖王の器の回収は最優先。 タイプゼロの捕獲も、可能であれば行う。総合管制は私、ナンバーズファースト…ウーノ」 フェイト「シスター…会議室にいらしたんじゃ」 シャッハ「会議室のドアは、ゆうしの努力で何とか開きました。それで、私も急ぎ、二人を追って…」 なのは「はやてちゃんたちは?」 シャッハ「お三方とも、まだ会議室にいらっしゃいます。ガジェットや襲撃者たちについて、現場に説明を」 なのは「分散しよう。スターズはギンガの安否確認と襲撃戦力の排除」 フェイト「ライトニングは六課に戻る」 スバル・ティアナ・エリオ・キャロ「はい!!」 なのは「シスターシャッハ。上の皆を、お願いします」 シャッハ「この身にかけて」 ティアナ「スバル!先行しすぎ!」 スバル「ごめん!でも、大丈夫だから!」 なのは「仕方ないね。こういう場所だとスバルのほうが速い。大丈夫!こっちが急げばいい!」 ティアナ「はい!」 ルキノ「システム、完全にダウン。防御システムも、もう…」 グリフィス「くッ……」 ルーテシア「この子で、間違いない?」 ウーノ「はい、間違いありません。保護してくださって、ありがとうございます。その子もとても可哀想な子なんです」 白衣の男「モンディアル家のご子息、エリオ君は、既に病気で亡くなられている。 そしてこの子は、亡くなった息子さんの特殊クローン。プロジェクトF。 忌まわしき生命創造技術で生み出された劣化コピーです」 フェイト「スカリエッティはどこにいる!?何でこんな事件を起こす!?」 トーレ「お望みでしたら、いつでもご案内します」 セッテ「もちろん。あなたが我々に協力してくれるのならですが」 フェイト「彼は犯罪者だ!それも最悪の!」 トーレ「悲しいことを言わないで下さい。ドクターは、あなたやあの少年の、生みの親のようなものですよ」 フェイト「くっ」 セッテ「あなたがたの命は、ドクターがプロジェクトFの基礎を組み立てたからこそ」 フェイト「黙れ!」 キャロ「壊さないで…。私たちの居場所を…、壊さないでーーーー!!!!」 スカリエッティ「ミッドチルダの地上の管理局員諸君。気に入ってくれたかい? ささやかながらこれは私からのプレゼントだ。治安維持だの、 ロストロギア規制だのといった名目の元に圧迫され、正しい技術の促進したにも関わらず、 罪に問われた稀代の技術者たち。今日のプレゼントはその恨みの一撃とでも思ってくれたまえ。 しかし私もまた人間を、命を愛する者だ。無駄な血は流さぬよう努力はしたよ。 可能な限り無血に人道的に。忌むべき敵を一方的に征圧することができる技術。 それは十分に証明できたと思う。今日はここまでにしておくとしよう。 この素晴らしき力と技術が必要ならば、いつでも私宛に依頼をくれたまえ!格別の条件でお譲りする」 カリム「……予言は…覆らなかった…」 はやて「まだや。……機動六課は、あたしたちは、まだ終わってない」 次回予告 ティアナ「壊されてしまった、地上本部と機動六課」 エリオ「だけど、倒れたままではいられない」 ティアナ「立ち上がるんだ。皆でもう一度」 エリオ「次回、魔法少女リリカルなのはStirikerS第18話」 ティアナ「翼、ふたたび」 ティアナ・エリオ「Take off!」